ケモデクトーマ
先週届いたVETERINARY ONCOLOGYのテーマが
『日常でよく遭遇する厄介な腫瘍を克服しよう』でありまして
今日はその中から、ケモデクトーマを取り上げます。
ケモデクトーマは大動脈小体と頸動脈小体の腫瘍をまとめた名称です。
どちらの腫瘍も犬さんでの発生は少なく
猫さんでは稀とされる腫瘍です。
この大動脈小体とか頸動脈小体って何をしてるの?って話かと思うので
簡単に書いておきますと
これらは身体の中の低酸素を感知する化学受容体と呼ばれるものでして
体が低酸素になった時にそれを感知して
脳に伝え
もっと呼吸してー、みたいな感じで
頑張って酸素を取り込んでもらうように働きかける
そんな感じの仕事をしております。
これらの化学受容器に発生する腫瘍が今回のケモデクトーマなわけですが
発生はフレンチブルドッグさんやボストンテリアさんなどの
短頭種と呼ばれる犬種さんに多いとされています。
この子達は解剖学的に生まれつき低酸素になりやすい状態であることも多いため
これらの化学受容器が慢性的に刺激されることによって
腫瘍となるのではないかと考えられていたりします。
人でも
高山などに住んでいる人々において、この腫瘍の発生率上昇が報告されているそうなので
低酸素の環境とケモデクトーマの発生にはそれなりに関係があるのだと思います。
で、このケモデクトーマのうち
頸動脈小体腫瘍の発生率は10-20%のみとされ、比較的珍しいので
今回は大動脈小体腫瘍について、もう少し書いていきます。
部位的に大動脈小体腫瘍は心臓腫瘍に分類されるのですが
犬さんの心臓腫瘍自体の発生率は0.19%とされています。
その心臓腫瘍のうち一番多いのは以前にも取り上げた血管肉腫。
その次に多く診断されたのは大動脈小体腫瘍とされています。
なので、それなりに遭遇機会がある腫瘍なわけですね。
この腫瘍、最初は症状を出さないことも少なくないので
多くの場合は
健康診断であったり、他の疾患についての検査などで偶発的に発見されるものになります。
最近は健康診断を定期的にされる方も増えてきておりますが
健康診断をして良かったな、となるケースの一例かもしれません。
もちろん無症状な子ばかりではなく
症状を示す子もいらっしゃいます。
よく報告されている臨床症状としては
・運動不耐性
・虚脱
・呼吸障害、咳
・腹部膨満
・食欲不振
・体重減少
・消化器症状
などです。
上の三つは胸部の検査をすることにはなりそうですが
下の四つから心臓腫瘍を連想するのは難しい場合も少なくないと思いますので
注意は必要ですね。
大動脈小体腫瘍については
確定診断なしに治療が進められるケースが多いのが現状です。
本来であれば腫瘍の確定診断においては
病理組織学的な評価が必要なのかもしれませんが
発生部位が心基底部と呼ばれる部位なので
なかなか開胸して組織を取りにいきましょう、というのも現実的でない場合が多いです。
なので、通常は
身体検査、レントゲン検査、超音波検査などを総合的に判断して
診断されるケースがほとんどかと思われます。
いざ、大動脈小体腫瘍ですねってなったら次は治療選択になるわけですが
基本的には外科手術適応とはならないとされております。
ただし、腫瘍に対する直接的な外科手術ではなく
心臓を覆っている心膜を切除する心膜切除術が
この腫瘍の予後改善には有益であるとされており、治療の選択肢の一つになります。
具体的な報告を見てみると
心膜切除を実施した群の生存期間中央値が42日であるのに対し
実施した群は730日と有意な延長が認められていたり
別の報告でも
心膜切除の実施により生存期間中央値が2ヶ月未満から22ヶ月以上に延長したとされています。
これらの生存期間中央値の延長は
心臓の腫瘍が原因で起こると予測される心膜液の貯留や心タンポナーデを予防することによって
齎されるのではないかと考えられています。
内科療法はどうなのかと言いますと
あまり選択肢は多くないのですが
トセラニブリン酸塩(商品名パラディアですね)の有効性を報告している論文がいくつかあります。
2019年の報告では
トセラニブ単独投与により治療を受けた犬さんの生存期間中央値823日であったとされておりますし
何かしらの臨床症状を示していた犬さんのうち
90%は改善が認められ、81%の子の症状は完全に消失したとされています。
結構、効果がありそうですよね。
ステロイドやNSAIDsなどの他の薬剤に関しては
トセラニブ単独とトセラニブと併用という形で評価された報告がありまして
単独群と併用群で有意な差がなかったとされているので
基本的にはトセラニブ単独で良いのだと思います。
まとめますと
ケモデクトーマは症状がないケースも多いので
定期的な健康診断というものは大事なのかなというのと
中高齢以上の子は心臓のエコー検査も健康診断で実施する方が良いのかなと思います。
また、診断自体は身体検査、画像検査などを総合して判断していく形となりまして
治療の内容としては
外科的な心膜切除と内科的なトセラニブの使用を組み合わせて
考えていく形になるのが一般的なものとなっています。
どんな病気でもそうですが
できれば症状が出る前に早期発見してあげたかったなあ、と
痛切に感じることが最近は多いです。
やはり健康診断は大事だと思います。
それでは、今日はこの辺で失礼いたします。